東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)172号 判決
事実及び理由
原告主張の審決取消事由の存否について判断する。
引用例に審決認定のような技術事項が記載されていることは、原告の認めて争わないところである。
成立に争いのない甲第五号証(本願考案の訂正明細書)によれば、本願考案の目的は、「従来、立体駐車場における格納棚が平板状であると、万一ブレーキをかけ忘れたり、又は突発的なことで、棚からはみ出し、落下する事故の起ることがあり得るものであり、或は、作為的に落下させられる事故につながることも考えられる」ところ、本願考案は、「これらの事故を未然に防止するようにした格納棚装置を開発したものである」ことが認められる。
原告は、引用例のものは、その目的、作用効果等において特有であり、その技術的構成が本願考案の構成とは全く異なるところ、本願考案は、引用例に記載されていない簡潔構成及び作用効果を有するものであるから、本願考案を当業者がきわめて容易になしうる程度のものとするのは誤りである旨主張する。
しかしながら、引用例に「立体駐車場装置の自動車格納部分の床面を入口から奥部の壁に向つてゆるやかに傾斜させてなる構成」が記載されていることは、前記のとおり、原告の認めて争わないところであり、かつ、成立に争いのない甲第七号証(引用例)によれば、引用例記載の右技術事項は立体駐車場装置に関するものであることが明らかである。そうであれば、引用例記載の右技術事項と本願考案とは技術分野を同じくするものということができ、両者は、「立体駐車装置の自動車格納部分の床面を傾斜させた構成」の点で一致するものであることが明らかである。本件審決が引用したのは、引用例記載の発明の特許請求の範囲に包含される技術的構成要件の全体ではなく、前記のような立体駐車装置において床面を傾斜させるという技術事項にすぎないものであるから、両者が技術的構成および作用効果において全く異るとする原告の主張は失当というほかない。
ところで、自動車を駐車場に定置する場合、車止め装置としてガードレールを用いることが、一般に周知慣用の技術であることは、当裁判所に顕著な事実であり、本願考案がガードレールを設けたことによつて全体として奏する効果も当然に予想される程度のものとみるのが相当であるから、審決が、本願考案において車止め装置(ガードレール)を設けた点に格別の考案力を要するものとは認められないとしたことに誤りはないというべきである。
しかして、原告主張のように本願考案の構成が特に簡潔といえるかどうかは、考案の目的ないし解決課題に照らして判断されるべきものであるところ、駐車自動車のはみ出し防止ないし落下防止という本願考案の目的に照らして考察すると、本来複雑な構成が予想されるようなものではなく、本願考案の構成が特に簡潔といえる程のものではないとみるのが相当である。
右のとおりである以上、原告の前記主張は採用することができず、本願考案は前記の引用例の記載および周知の慣用技術に基づいて、当業者がきわめて容易に考案することができるものとした審決に、進歩性の判断を誤つた違法はない。
〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。
立体駐車場の自動車格納棚装置における各格納棚1を傾斜させて作り、かつそれぞれの傾斜格納棚1の先端に車止め装置(ガードレール2)を取付けて成る立体駐車場自動車はみ出し落下防止格納棚装置。